「……親戚がオーストラリアに嫁に行ったけどさ。
グレートバリアーリーフに向けてダイビング免許取るべき?」
「妄想すんな。嫁入り先からグレートバリアーリーフ遠いっつーの。沖縄~北海道間より遠いっつーの」
「……てか、シュノーケリングの後ではとても海水水槽に手を出す気にならん……あれは……無理だ……」
「お前の妄想が1つ打ち砕かれてよかった」
ホテルでグースカ寝ていたこるものさんだったが、真っ昼間にいつまでも寝ているわけにもいかない。
というのは西表の夜は真っ暗。
店は全部6時には閉まる。
孫正義のビッグマウスによりiPhoneが多機能電卓と化している状況。
夜、眠れなくてもやることがないので昼間に遊ぶしかない。
「とりあえず昼メシだ!」
「でもメシ屋なんかあるのか?」
近所に2軒あるうちのもう1軒。
……ガイドブックで調べるまで店の看板だと思ってなかったので、「ちょっと隠れすぎな隠れ家レストラン」に向かう。
「……なあ。これ、ホテルの隣……」

既に大冒険の匂い。
ちなみにこの日、西表島では沢登りに出かけた地元の男性2名が行方不明。
消防団が総出で捜索しており、ラジオ、ホテルのツアー受付、シュノーケリングのガイドのあんちゃん、レンタカー受付のねーちゃん、飲み屋のねーちゃん、全員がその安否を気遣うと同時に
「よそ者は危ないことすんなよここマジで死ぬからな」
と全身全霊で俺たち観光客に釘を刺していたのだった。
(※ちなみにこの男性2名、普通に迷っただけで大した怪我もなく無事保護された。
大層いたたまれない思いをしただろう特に26歳無職の方)
そして俺たちの前に広がるジャングル。
とてもじゃないが1歩も道を外れる気にはなれない。
「第十の晩に魔女は蘇り、誰も生き残れはしない……
楼座、よく森に入って生きてられたな……
そりゃ九羽鳥庵のベアトも死ぬわ」
「ていうかこの森の脇道に入ってから大分経つのに、店が全然見えないぞ……」
孤島を買い上げなくてもクローズドサークルは作れる。
いや、2011年でも津山30人殺しは可能だと悟った。
森の中には、それこそNHKでしか見ないオオゴマダラとかアサギマダラとか何か黒い蝶とか翅が茶色いトンボ(チョウトンボ?)とか飛んでいる。
ちなみに、姉は農学部卒。
「……俺たちさあ、なまじなクイズゲーム程度なら協力して解ける程度の情報強者のはずなのにさっきから全然生物の名前がわからないぞ……?」
「生態系が……生態系が違う……」
昼メシ食いに行くだけのつもりだったのでカメラを持っていなかった2人。
すごい敗北感。
でも意外に蚊に刺されなかったのは幸運なの?
ここでダニにやられたら命の危険も覚悟した方がいいと思っていたが。
進化論学者ウィリアム・ハミルトンは2000年にコンゴでフィールドワーク中にマラリアで死んでる。
そしてたどり着いた店は、「昭和から時間の止まった喫茶店」。
俺は一応地元っぽいそうめんチャンプルーを頼むが、姉はどう見てもレトルトのカレー。
「それでいいの?」
「だってお腹疲れないか?」
「……まあ、確かに」
そうめんチャンプルー、ゴーヤ入ってたらどうしようかと思ったけど入ってなかった。
うまかったけど油がきついのと、豚肉入ってるのに謎の魚肉(シーチキン?)も入ってるのがすげえ不思議だった。
そして好き嫌いしてるわけではないのだがにんじんが余った。
昼メシを食い終えると、老父母と合流。
とりあえずホテルのレンタカーを借りて走り出すものの。
「これ……ナビ?」
受付のねーちゃんは「ナビはついていません」と言ったのだが、ナビのような液晶が。
しかし操作方法が全くわからない。
そもそも道が島を1周する1本しかない(脇道はほとんど私道か農道)ので現在地を示してくれるようだが、ときどき電子音を発するだけで何が何だかわからない。
しかも借りたニッサンマーチ、「走れればいいだろう」と言わんばかりにボッコボコに傷だらけなのはいいとして、ブレーキを踏むたび謎のブザーが鳴る。
確かに後ろの車にはブレーキを踏んだことを知らせるべきだが、踏んでる本人に知らせて何がしたいのか意図がよくわからん。
それでも異様に燃費のよかったこのマーチ。
返すときにガソリンを満タンにするのにかかった費用は800円。
ほぼ島を1周したのに800円。
レンタル代も入れると3800円。
いや、確かに美ら海は往復4時間で200kmばかり走ってる計算になるんだけど……
こうも違うの……?
とりあえず行くところはあんまり、ない。
「西表野生動物保護センター」なるところくらいしか目標がないが、閉館が4時。
出発したのは何だかんだで3時。
結構ギャンブル。
「まあほら。入っちゃえば追い出されるまでいていいわけだし」
↑シンガポールでこれをやったら、閉館の瞬間に電気を消されたことがある俺。
そうして走り出す。
……地元民の車が、ゆっくりか荒いかの2種類しかいない……
あんなに道を譲られたことってこれまでの人生にないぞ……
何せなにわナンバーはどんな状況でも笑顔で減速せずに突っ込んでくるし、実はメチャメチャ交通マナーの悪い京都の車間距離は5センチだからな……
「まあイリオモテヤマネコはランダムエンカウントしかないし、島の住民でも滅多に見れんって話だからあんまり期待しないとしてだ。
何か楽しいイベントあればいいけどなー」
と言った先から対向車線に何か落ちてる。
……ヤエヤマセマルハコガメだった。
行きすぎてものっそい慌ててブレーキ踏んで、カメラ持って戻ったらもういなかった。
「ちょ、ちょっと待って!? あのカメあっち向いてたよな!? 進行方向この辺だよな!? もう影も形もないぞ!?」
「ネコは無理でもカメは追いかけたら写真撮れると思ったのに!?」
「カメはええ!」
というわけで写真はない。
が、イベントとしてはオイシイ。
その後、地元民に倣ってゆっくり運転で道路を見つめたが、二度とセマルハコガメが現れることはなかった……
そうこうしているうちに野生動物保護センターへ。
交通事故に遭ったヤマネコを治療する目的の施設だが、治療ネコは展示していない。
映像のみ。
博物館でないので入館料無料で、電気はついててもクーラーが入ってない。
(※喫茶店はクーラーも料金分とばかりにガンガンかけてた)
博物館でないので学芸員でなく「スタッフ」
治療ネコの映像、「見たい方はスタッフにお申しつけください」と書いてあるもののスタッフの姿がない。
てかテレビを青画面でつけとくくらいなら、いっそ消すか映像流しっぱにするかどっちかにしろよエコ的に。
非常にやる気のない施設だが、置いてある資料は面白かった。
「なぜヤマネコは車に轢かれるのか? それは道路においしいものがあるから!」
車に轢かれた他の動物の死骸を食べてて、自分も車に轢かれるらしい。
他にも固有種の説明があって楽しいが、よく考えたら昼間の喫茶店のトイレのドアに
「こいつらは西表の固有種じゃありません! 危険外来種です!」
とカエルやイグアナの写真が賞金首の海賊の手配書みたくベタベタ貼ってあった。
おお、最後の聖域西表……
まあそれでも15分も見れば終わる。
次に目指すは仲間川のマングローブ林。
丁度、日暮れとともに潮が引き、シオマネキやらトビハゼが見られるはず。
そりゃ水族館どころか茨木観魚園でトビハゼとかマッドスキッパーとかムツゴロウとかバンバン売ってるけど、やっぱワイルド個体を見たいではないか。
「……え、でもこれ、仲間川、駐車場ないぜ? 海岸の浜辺の遊べそうなとこにはちょこちょこ“P”って路駐コーナーあったのに」
農道に迷い込んだり、遊覧船の駐車場に迷い込んだりしながら、そのたび地元の人に道を聞いて何とか生コン工場と墓場の間の超一方通行道路を上って川縁に到着。
人情が温かい!
墓場がすごい!
シーサーは墓に何か入るのを防いでるのか墓から出るのを防いでるのかどっちだ!
ここで生きてないものに出会ったら何のお経を唱えればいいんだ!
幸いヤギくらいしかいなかったけど!
野良? 飼い?
しかし川縁、降りるところがなかったのでズームしてもこんなん。

わかるか、白いのがシオマネキのハサミだ。
トビハゼに至っては跳んでるときしか存在を確認できない。
でも、「何かいっぱいいた」

「……俺、衝動的にマダガスカルとかガラパゴスとかに行く前に西表に来てよかった。
絶対、どこもここよりひどいに決まってる」
「こるものさんはこの旅で少し賢くなったね」
ぼくたーちのー中にーあるー小さーなー宇宙ー♪
大自然に圧倒された1日が終わる。
でもまだ旅行記は続く。